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登山や旅行、たまに動画編集をつらつらと。

丹沢富士ロングトレイル構想段階のお話

このルートを思いついたのはおそらく2019年頃のことだったと記憶している。山登りを始めて2年目で、どこに登っても楽しいイケイケドンドンな時期。

11月に開催された志賀高原エクストリームトレイルに出てみて、何とか完走しロングトレイルトレイルランニングの楽しさもうっすらと感じ始めていた頃だったように思う。

今思うと、あんな長い距離を良く走ろうと思ったなと決断した自分を褒めてやりたいが、山登りの体力に任せて完走したようなものだった。

内容を見ると手放しに褒められるものではなく、あまり芳しくなかったと今でも反省している。

志賀高原エクストリームトレイル

それ以来、歩き以外のそれぞれの山行形態に対して、正面に立ち紳士的でありたい、リスペクトフルな姿勢で関わりたいという意識が少なからず芽生えた。

事前準備やそのためのトレーニングなんかは当たり前のことであるが、自分がその世界に飛び込む上ではやはり大切で蔑ろにしてはならないものなのだと感じる。

先人に対しても、その活動自体に対してもそうである。


月日が経つのは早いもので、思いついてから実行に至るまで3年もかかってしまった。

というのも、クライミング沢登りなど新しく始めた領域が思ったよりも沼が深かったせいでもある。

ただ、心の隅っこには常にこのルートが転がっており、何かを訴えかけてくる状態だった。少なくともインターネット上にはここを繋げて歩ききっている人は未だに見つからない。

検索ワードを少しずつ変えながら調べても、ヤマレコにもヤマップにも個人ブログも出てこない。その結果を見てホッとしながら日々過ごしていたことは確かだった。


ルートを閃いたのは山と高原地図を何とはなしに眺めていた時のこと。

生まれも育ちも神奈川である僕は、一応丹沢がホームマウンテンである。

丹沢山地はその屋根を貫く縦と横の縦走路が存在している。

丹沢主脈丹沢主稜である。

丹沢主脈縦走はかなり名の知れたトレイルであり、丹沢の玄関口・大倉からスタートし、大倉尾根で塔ノ岳、その後主脈に入り丹沢山、神奈川最高峰蛭ヶ岳へと至る。

対して丹沢主稜は、その蛭ヶ岳以西の檜洞丸・大室山・菰釣山などへ繋がる道だ。丹沢主脈は割と早い段階で歩いており、
それを含む日帰りのロングトレイルとして丹沢to高尾(蛭ヶ岳から北上しつつ、相模湖周辺・城山を経て高尾山口駅へ)も歩いてみた。

これはヤマップで記録が沢山あり、1度山を降りるとはいえ高尾山口駅で温泉入って帰って来れるという所も魅力的で面白かった。


一方、丹沢主稜はあまり足を踏み入れてはいない。檜洞丸から丹沢主脈で大倉に抜けたことがあるくらいである。

主稜をずっと西に辿っていくと、甲相国境尾根に入る。読んで字のごとく、旧国名である相模と甲斐の国境ということだ。


どんどん進んでいくと、最後には山中湖の方まで繋がっているのだ。
以前よりスマホアプリの山と高原地図ホーダイに加入していたが、複数の地図を重ねて表示することができる機能がある。宣伝ではない。が、そのおかげで気がつくことができたと言ってもいい。

アプリ上ではその甲相国境尾根を辿って行った先が、まだ登山道の実線で繋がる先があるということに。その先の富士へ導かれていたのだった。

須走IC付近から繋げられることに気が付く。

これに気がついた時の興奮といったらない!すぐにネット上の記録を漁り始めたが、出てくるのは丹沢主脈と主稜を繋げたものがほとんどで、そこから富士山へ至っている人が見当たらないのだ。

こんなに心躍る瞬間があるだろうか。自分だけが地球上で新たな未踏峰を見つけてしまったような、なんとも言えぬ感情に襲われた。

何事も初めて行った、というのに価値が見出されるのは、ひとえにこの名前のついていない感情ゆえなのではないかとさえ思った。

山中湖からはふじあざみラインをひたすらてくてく進み、須走口五合目へ。そこからは一般的な富士登山と相成り、日本最高地点3,776mへと至る。


そして、丹沢を横にぶち抜くのであれば、スタート地点は大倉ではなく東の端である方が美しい。そこで白羽の矢が立ったのが、丹沢大山のさらに東に位置している飯山観音である。ここをスタート地点と決めた。



調べる内に、何故記録が出てこないのかという疑問について、原因が何点か浮かんできたので列挙してみる。


・丹沢がテント泊禁止であること

幕営ができないので、小屋泊か避難小屋利用となる。ただ、丹沢の避難小屋は運営母体が正式に「避難小屋を泊地とする計画はお控え下さい。緊急時のみ利用可能です」としている避難小屋がほとんどであり、まぁよくあるグレーゾーン。

小屋泊だと出費がかさみ、だったらアルプスの小屋にでもそのお金で……と考える人は少なくなさそう。


・青ヶ岳山荘以西に有人小屋がないこと

→全て避難小屋である。1点目と関連するが、計画使用がほぼNGなので山行計画として組み込むことを控えられている可能性。


・富士山開山期間で計画すると、丹沢は猛暑となること

→富士山の山小屋が空いている7月8月で計画すると、丹沢が暑すぎてとてもでは無いが縦走なんてしてられないと思う人が大多数である可能性。温度差が半端ないので、装備も熟考を迫られる。
 逆に丹沢が涼しい時になると、だいたい富士は雪となり装備が一気に増える。ぎりぎり雪のない10月でも、営業小屋としては佐藤小屋で前日はストップすることになる(たぶん。他にあったっけ)。

・夏は丹沢はヒル祭り

→語るまでもない。やだ。


・山中湖に降りた段階で、一区切り感がある

→わざわざそこからまた富士山につなげようと思わない。



ということで、総括すると色々とめんどくさいのだ。


そんな丹沢富士ロングトレイル(勝手に名付けた)だが、総距離は約100km(5合目に下山するまでを含む)、累計標高差約9500m(ヤマレコでの山行計画上の数値)。

流石に1回の山行では歩いたことがない距離と標高差である。上記の問題点等を勘案し、山行計画を練るにあたり1番の悩みの種は「何泊でやりきるのか」


初日で青ヶ岳山荘まで行ければ、2日目に山中湖、3日目に須走コース上の山小屋、4日目に登頂し下山するという計画がぱっと思いつくかもしれない。

その場合、富士山の山小屋までの3日連続で30km以上みたいなセミロングをやり続けることになる。

ただ可能なのかが全く分からない。今の自分の体力やどれくらい補給し続けていればシャリバテせずに行動し続けられるのかは何となくわかってきている。

トレランの大会も数個出てみて、その距離や累計標高差の方が意味するところもなんとなく想像がつく。

だが、それはあくまで一日二日での話であり、継続性のあるロングトレイルと同列に語れるものではない。

今回はその上で、無理をしない選択をした。



過去、燕岳から表銀座を抜け雲ノ平、薬師を越え室堂まで行く計画を実行した際、無理をして途中下山となった苦い思い出がある。

1日で槍ヶ岳から雲ノ平まで行かなければならない日があり、何とかガスガスの雲ノ平にたどり着いたはいいものの、その翌日。

太郎平にて力士のようにどっしりと構える薬師岳を仰ぎ見、疲労困憊で心が折れてしまったのだ。昨日の虚無が嘘のような暑い夏の空だった。

泣く泣く折立へエスケープしたこの山行は、今でも心に深く刻まれている。

絶望的な遠さに見えた薬師岳


よくよく考えるまでもなく、僕はプロトレイルランナーでも何でもないただの一般登山男性なわけで、無理をしたところで疲れるものは疲れるのだ。

それよりもむしろ、今一番大事だと思うのは「最後までやりきること」。この一点に尽きる。

最後までやりきるために、どういう準備をすればいいのか、どんな山行計画で挑むのか、全力で考えてこのルートに向き合いたい。そんな気持ちで準備に勤しんでいた。

しかし、結果としては準備がまだまだ足りないことを思い知ることになる。